お願い!嫌にならないで
Q.13,5 たまには拗ねるくらい、いいですか。【水野さん視点】
【水野さん視点】
「大変申し訳ございません!」
21時前の花川産業さんは、既に営業時間を終えている。
それにも関わらず、担当者である堤さんは残ってくださっていた。
ずっと、私が来るまで待っていてもらったのだと思うと、申し訳ない。
入口のカウンター前で、とにかく頭を下げ続ける。
こんな失態は、生まれて初めてだ。
信頼が薄れてしまったかもしれない。
頭を下げて、謝罪を続ける私に堤さんは、意外にも柔らかく微笑んでくれた。
「そんなことよりも、水野さんに大事がなくて良かったです」
「そ……そんな」
「真面目できっちりしてくれるので、何事かと心配でソワソワしましたよ」
「本当に申し訳ございませんでした……こんな時間まで、お待たせしてしまい……」
「問題ありませんよ。僕も残業してでも、終わらせないといけない仕事が丁度あったので。それに、約束してもらった時間には、間に合ってますし」
「……え?でも、もう21時……」
カウンターの上にある電波時計と、堤さんの顔を何度も交互に見る。
「水野さんの部下だって言う方が来られて、事情を説明してくれたんですよ」
そう言って、堤さんが1枚の名刺を差し出す。
そこには確かに『エースワン株式会社 営業部 辻 泰孝』と書かれていた。