お願い!嫌にならないで
用件を終えても、世間話の話題は尽きない。
しかし、外で辻さんを待たせているのを思い出し、話を切り上げる。
「堤さん、あまり遅くまで、無理されないでくださいね」
「ありがとうございます。これ、資料、ありがとうございました。お気を付けて」
「ありがとうございます。遅い時間に申し訳ありませんでした。失礼致します」
名残惜しいが、頭を下げて、その場を去る。
また、私は頑張れる。
今回、いろんな人に心配をかけた。
今後、こんな失敗はしない、と誓う。
もっと、自分を強く持つんだ。
名前を思い出すのも嫌だけど、田中さんとの決着がついた今、私はあの人に勝った。
きっと、そういうこと。
少し先を見ると、丁度、別れたところに辻さんの後ろ姿を見つけた。
つい先程、私を守ってくれた大きな頼もしい背中。
それを見ていると、思わず、抱き着きたくなる。
街の明かりに照らされて、仄かに浮かび上がっているスーツの上からでも分かる、筋肉質な広い背中にぎゅっと飛び込んでみたい。
自分の欲に、胸がぎゅうっとなる。
他所の会社の前で、何を考えているの、私。
いきなり抱き着いて、変態だと思われたら大変。
ぐっと、堪えないと。
「お、お待たせしました」
声をかけると、辻さんが振り返る。