お願い!嫌にならないで
目が合ったままのこの時間に耐えられなくなり、とうとう俺から声を発した。



「あの、ちょ、水野さん…?そうじっと見られると……」

「普通の辻さんがいいです」

「え?ん?」

「眉間にシワ寄せられると、なんだか……」

「え、あっ、恐がらせちゃいましたか?すみません……」

「いえ、そうではなくて……」



水野さんは、口許に手を持っていく。

そして、小さく吹き出した。



「面白くて、笑ってしまいそうで」



んん?水野さんもなかなかに失礼ですよ。

「笑ってしまいそう」って、既に笑っているじゃないですか。

でも、水野さんだから、許しちゃいますけど。

山本くんだったら、許せなかったけど。

俺は、顔の力みを解放する。

すると、水野さんはニッコリと微笑んだ。



「やっぱり普通の辻さんのがいいです」

「はい。普通でいます」

「はい。普通でいてください」



この訳のわからないやり取りに、山本くんは呆れていた。

俺としても、訳がわからないが、ただ幸せなことだけは確かだ。

しばらくして、俺は水野さんと外回りに出発した。

水野さんとなら、今日も気分良く過ごせそうだ。

なんて、このときの俺は、あまりに呑気過ぎて後に、あっと驚かされる出来事に遭遇することになる。
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