お願い!嫌にならないで
促されるまま、両掌を見せるように出す。
出したとき、今度は私がぎょっとする番だ。
慌てて引っ込めようとしたが、既に遅かった。
がっちり両方の手を捕まえられて、逃げられない。
手首の赤くなった今すぐには消えない痣を、まじまじと見られてしまう。
「わ。内出血してるじゃないですか! 」
眉間にシワを寄せて、だけど、手は優しく赤くなったところを撫でてくれる。
「水野さんの綺麗な手に、あいつ……やっぱり1回ぶん殴っておけば良かった」
「まぁまぁ、終わったことですし」
「……水野さんも、ちゃんと怒らないと駄目ですよ。完全な被害者なんですから。さ、コンビニで何か冷やす物、買っていきましょう」
「あ、ちょっと……」
そう言って、手を引かれるまま、一番近くのコンビニへ一緒に入った。
そして、会計を済ませた後、イートインスペースに横並びで座る。
「はい。手、出して」
小さい子どもに言う様な言い方で、その手には購入したばかりの湿布がスタンバイされている。
もうバレていることだと諦めて、素直に手を差し出した。
その手つきは、まるで割れ物を扱うように丁寧で、こちらが照れてしまうくらい。
慣れていないから、気絶してしまいそう。
普段は、営業部のマスコットキャラクターになるんじゃないかというくらい弾けている人が、真剣な表情で気遣ってくれている。
辻さんは、こういうところにキャップがある。
どれだけの人が、この辻さんを知っているんだろう。