お願い!嫌にならないで
Q14.本当に見放されていたのでしょうか。
『辻さぁん…………おーい……辻さぁん……つじ──』
俺はまさに今、ある動物たちにもの凄い速さで、追い掛けられていた。
必死で逃げながら、後ろの様子を伺ってみれば、大群のカピバラ。
意味が分からない。
そのカピバラ達は俺を追い掛けながらも、名前を呼んでくる。
まるで、トンネルの中に響いている様な音で。
ますます意味が分からない。
男性寄りの声だ。
どこかで聞いたことのある声に、エフェクトがかかっている。
かなり気色悪くて、ゾワゾワする。
そして、だんだんと近寄ってくる声。
──駄目だ! 追い付かれる!
目を瞑った途端、俺を呼ぶ響く声が鮮明に、はっきりと聞こえてきた。
「──辻さん! 起きてくださいよ!」
目の前に現れたのは、カピバラ……ではなく、山本くんだった。
寝惚け眼で辺りを見渡す。
そうだ、ここは営業車の中だった。
遠方の取引先を目指しているため、コンビニの駐車場にて少し早めの昼休憩を取っていた。
弁当を食べた後、いつの間にか眠りに落ちていたようだ。
そして何故だか心持ち、頭が痛い。
「はぁぁ……カピバラ、怖ぇぇ……」
「何、言ってんすか。意味不明な発言をする辻さんのが、俺は怖いですよ」
そうだった。
ドン引きする山本くんと今日は同行していたのだ。
「さて、さっさと出ますよ。取引先との商談に遅れたら、ヤバいんで。運転席で爆睡されると、出発も出来ないですし」
「すみませんでした。行きましょう」
体調に違和感をおぼえつつ、車を発進させた。