お願い!嫌にならないで



落ち込みながら取引先を出て、車に乗り込む。



「山本さん、すみませんでした。ご迷惑おかけして…………」

「珍しいですね。顔色も悪いですし。大丈夫ですか? 寝不足ですか」

「うーん……それもあるかもしれません」

「体調管理も仕事の1つって、よく言うじゃないすか。無理するのは、誰の為にならないっすよ」

「はい……」



エンジンをかけようと、キーを回す。

しかし、商談も終わりホッとしたからか、その動作すらも、毛怠く感じる。

しかも、ここは県外の取引先で、片道2時間かけて来た。

この体調で、再びロングドライブをする自信が無い。

ましてや、隣に俺以外の人を乗せている。



「…………山本さん。すみません。ちょっと運転、代わってもらえないでしょうか」

「いいですよ。もう時間も時間ですし、このまま事務所戻りましょうか」

「お願いします」



助手席に乗ると、張っていた気も緩む。

そうすれば胃の不快感など、今まで無かった症状まで出てきて、俺を更に苦しめる。

確かに、ここ最近は製品をもっと覚えて、お客さんとちゃんと仕事の話を深められるようにと、夜遅くまで調べものをしていた。

今日のところも、今日のところで難しい人の揃っているところだと部長に脅されたし。

イレギュラーを言われた時の切り返し方などを考えていて、なかなか寝付けなかったことも事実だ。



「ほんと……すみません」

「鬱陶しいので、もう謝らないでください。後ろで横になってても良いっすよ」



毒は有っても、気遣ってくれる山本くんの声を聞きながら、徐々に意識が遠退いていった。
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