お願い!嫌にならないで
「だから……18時半です」
自分の耳を疑った。
山本くんと別れたのが、16時半頃だったのは覚えている。
何なら、部長との通話履歴だって残っている。
「俺、2時間も寝てたんですか!」
「……よっぽど、疲れてみえたんですね」
「いや、最近、夜更かしばかりしていたので……自業自得なんですけど」
「夜更かしを?」
「はい。ちょっとでも製品について、知識を付けたいなと思って……」
頭を掻いて言うと、水野さんは俺に微笑む。
「努力家ですね。でも、1人で無理なさらないでください。私も辻さんの力になりたいんです。私にも何か出来ることがあれば、言ってください」
「ありがとうございます……」
感激だ。
水野さんに、そんなことを言ってもらえるなんて。
水野さんに思わず合掌をすると、また謙遜をして慌てている。
「いえいえ……そろそろ、帰りましょうか。辻さん、自宅でゆっくりされた方が良いですよ」
「そうですね。そうさせてもらいます」
本当に今日は、帰って休もう。
明日も仕事があるわけだし。
そして、帰る準備をと、ちょうど水野さんの後ろ、ソファに立て掛けてあった鞄を取ろうと彼女に接近したとき。
もの凄い勢いで、後退りをされた。
あまりの速さに、俺も驚く。
「ちょ、み、水野さん……?」
「え? あ、や、気にしないでください」
「……いやいや。さっきから、ずっと様子が可笑しいですよ? 気になりますって」
「ほ、本当に気にしないで」
「え。いや、なになに。気になるって」
すると、水野さんの視線が俺の顔から、少し下がる。
何だ?
もしかして!
俺は慌てて、水野さんに背を向け、チェックする。
──「社会の窓」は開いてない。とすれば、何だ?
如何にも、頭の悪そうな迷探偵 辻 泰孝。
いくら尋ねても、やっぱり水野さんは真っ赤な顔で首を横に振るだけだった。