お願い!嫌にならないで



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昼休憩を終え、本日、3社目の訪問だ。

駐車場に車を止めて、運転していた水野さんが一息吐く。

女性に溜息を吐かせてしまうほど疲れるまで、運転させて、それどころか男の俺が助手席に乗っている、この状況が情けない。

俺は俺で、溜息を内心で吐き出した。



「水野さん、大丈夫ですか?」

「ご心配、ありがとうございます。運転は好きなので、何も心配要りませんよ」



確かに、水野さんはスマートな運転をする。

上手だ。

運転が好き、ということはドライブなんて、よくしたりするのだろうか。

水野さんとのドライブは、絶対に楽しい!

俺は、今のところ有りもしない現実を妄想しては、ワクワクする。

水野さんが車を降り、後部座席へ荷物を取りに行く。

俺も名刺などの物が手元にあるか、再確認をした。

そして、水野さんの準備が終わるのを、車の横で直立して待っていた。



「この会社は、先日お電話でお問い合わせいただいた、新規のお客様になります。一度ご挨拶をしていきましょう」



不意に車から頭を出した水野さんが、いつもよりも凛々しい仕事モードの表情で言う。

素敵だと思う。

俺は、お得意の勢いの良い返事をした。
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