お願い!嫌にならないで


水野さんの様子を気にしていると、中谷さんが前のめりな姿勢で、俺に迫る。



「その前に、辻さんに1つご相談なんですが」

「何でしょう」

「出来れば、辻さん宅にお邪魔したいんですが」

「はい?」

「だって、辻さん、最寄り駅『ひばりヶ丘』なんですよね? 水野さんから聞いちゃいました」

「た、確かにそうですけど……」

「私たちは『富士見台』なので、ちょうど真ん中じゃないですか」

「いやいや、ちょうどでもないような……」



私たちの「たち」とは言わずもがな、中谷さんと山本くんのことだ。

中谷さんに圧される俺に、山本くんが追い討ちをかけてくる。



「でも、真ん中は真ん中っすよね?」

「う……真ん中っちゃあ、真ん中かもしれませんけど……」

「っすよね」

「くっ………はい……」



歯を食い縛る。

とりあえず、部屋を片付けておこう。

2人の圧しに負けた俺を、水野さんだけが気遣ってくれる。



「ちょっと2人とも。そんなに辻さんを困らせたら駄目だってば」



優しいのは貴女だけです、水野さん。



「良いんですよ、俺は」

「本当ですか? ご迷惑じゃ……」



水野さんが言いかけたところで、中谷さんが被せる。



「水野さんも何だかんだで、辻さん宅行きたいんですよね?」

「わ、私は別にそんなんつもりじゃ……!」


 
分かりやすく動揺する水野さんに、思わず笑ってしまった。



「水野さんに来てもらえると分かったら、部屋綺麗にして、全力でお迎えしますから」



そう言うと、中谷さんと山本くんの2人は「差別だ」「贔屓だ」と繰り返して、からかってくる。

2人を上手いことして宥めて、そして、その後すぐに日程は決まった。

来週の金曜日、みんな都合が良いそうだ。

何だかんだ、俺も楽しみに待ち侘びている。
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