お願い!嫌にならないで
******
そして、とうとう迎えた金曜日。
只今の時刻は、午前9時半。
つい先ほど作成した2、3件分の見積書と、パンフレットを携えて、外回りの準備は整った。
「よし! 行ってまいります!」
「……辻さん、テンション高……」
朝が苦手な山本くんが、呆れ気味に言う。
確かに彼の言う通り、今日の俺はいつもよりテンションが高い。
言わずとも分かると思うが、1日の終わりには、宅飲みという大行事が待っている。
俺のアパートで開催される、というのが非常に厄介ではある。
そう思いつつも昨日の夜のうちに、ある程度、部屋は片付けた。
見られて困るものは、とりあえず隠してきたから問題ないだろう。
意気込んで事務所を出ると、会社のロビーに小岐須部長が誰かと居るのを見つけた。
一応、一声掛けてから、出ようと思った。
「小岐須部ちょ──」
少し寄ったところで、小岐須部長の向こう側に居る人物が見えて、思わず声が詰まる。
その人物は俺に気付くと、にこやかに手を上げた。
「おっ、辻じゃないか」
「小池部長、ご無沙汰してます」
「元気にしてるか?」
「はい。この通りです」
そこに居たのは以前、俺が所属していた総務の小池部長だった。
変わらず、俺に笑いかけてくれるのが嬉しいような、そうでないような複雑な気分だ。
もう、俺は総務の人間ではないから。
可笑しいな、この人と話すことが、こんなにも居たたまれなくなるようなことだったかな。
己の感情に、戸惑いを隠せなかった。
すると、小池部長は首を傾げる。
「何だか──」
「え、はい……」
「辻。何だか、総務に居た頃より元気が無くなったな」
「や! そんなことは」