お願い!嫌にならないで



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そして、とうとう迎えた金曜日。

只今の時刻は、午前9時半。

つい先ほど作成した2、3件分の見積書と、パンフレットを携えて、外回りの準備は整った。



「よし! 行ってまいります!」

「……辻さん、テンション高……」



朝が苦手な山本くんが、呆れ気味に言う。

確かに彼の言う通り、今日の俺はいつもよりテンションが高い。

言わずとも分かると思うが、1日の終わりには、宅飲みという大行事が待っている。

俺のアパートで開催される、というのが非常に厄介ではある。

そう思いつつも昨日の夜のうちに、ある程度、部屋は片付けた。

見られて困るものは、とりあえず隠してきたから問題ないだろう。

意気込んで事務所を出ると、会社のロビーに小岐須部長が誰かと居るのを見つけた。

一応、一声掛けてから、出ようと思った。



「小岐須部ちょ──」



少し寄ったところで、小岐須部長の向こう側に居る人物が見えて、思わず声が詰まる。

その人物は俺に気付くと、にこやかに手を上げた。



「おっ、辻じゃないか」

「小池部長、ご無沙汰してます」

「元気にしてるか?」

「はい。この通りです」



そこに居たのは以前、俺が所属していた総務の小池部長だった。

変わらず、俺に笑いかけてくれるのが嬉しいような、そうでないような複雑な気分だ。

もう、俺は総務の人間ではないから。

可笑しいな、この人と話すことが、こんなにも居たたまれなくなるようなことだったかな。

己の感情に、戸惑いを隠せなかった。

すると、小池部長は首を傾げる。



「何だか──」

「え、はい……」

「辻。何だか、総務に居た頃より元気が無くなったな」

「や! そんなことは」
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