お願い!嫌にならないで
小岐須部長が俺に「なっ」と、笑い掛けてくる。
この人は男から見ても、男前だ。
田中さんからは放任主義だと言われ、確かに部下に仕事を投げがちだが、アフターケアは程好くしてくれる。
主に、メンタルの。
また目頭が熱くなってくる。
息を吸い込んで、震える喉を落ち着けた。
「小池部長。拙いながらも何とかやらせてもらってます。お客さんもいくつか持たせてもらって、少しずつ楽しくなってきました。だから、大丈夫です。俺、今度はここで頑張ります!」
今頃になって、自分の調子が出てきた。
「そうか……お前が良いなら、それで良いんだ」
俺の言葉に小池部長は、少し寂しそうにしてくれている。
──部署を離れた俺を、この人はまだ覚えていてくれるんだ……。
嬉しいのに、何故かしら胸がギュッと音を鳴らしたような、そんな気がした。
俺が何も言えなくなっていると、遠くの方から女性社員が、パタパタと駆け寄ってくる。
「部長! 小池部長! こんな所にいらっしゃったんですね。先日の納品の件で、専務がお呼びですよ」
「あ。そういや、そんなこと言ってたな」
「もう! 部長が忘れられると、また私が伝えてないって言われて、怒られるんですからね!」
女性社員に急かされる中で、不意に小池部長がこちらを振り返ると、俺の名前を呼んだ。
そして、お猪口をくいっと傾ける仕草をする。
「また、ゆっくり飲みに行こうな」
「あ、ありがとうございます……! 是非」
そうして片手を上げ、総務に戻っていく。
すっかり気の抜けた俺を、小岐須部長が覗き込む。
「それにしても、元上司なのに。そこまで緊張することないだろ」
「いやぁ、なんか……それこそ今日まで、勝手に俺だけ総務に疎外感を感じていたので、小池部長が変わらず接してくださって、戸惑ってしまいました」