お願い!嫌にならないで



「疎外感か。そんなものは、最初から抱く必要なんて無いんじゃないか?」

「え」

「池やんとは、実は高校からの付き合いでな。よく飲みに行くんだ」

「あ! だから、あだ名で呼び合う程、親しいんですね」

「ああ。池やんは俺の2つ下の後輩だ」



愉快そうに笑う。



「あいつと飲みに行くと、ほとんどお前の話題だぞ」

「俺の?」

「そうだ。『あいつは元気か』『ちゃんとやってるか』って、爺さんみたいにお前のこと、いつでも心配してる」

「……そうだったんですか」



小池部長が俺のことを、気に掛けてくれていたなんて。

その事実が本当に有り難くて、口元が緩む。



「だから、疎外感だとか、周りがどうとか、いちいち考えるな。キリが無いだろ」

「確かに、そうですね」

「そういえば、この前、山本と行った商談のことで気に病んでたじゃないか」

「はい……あの時は山本さんに助けてもらえたので、何とかなりましたが……」

「その場に居る人間で解決したのなら、それで問題は無い。次に同じ失敗を繰り返さなければ、良いだけの話さ」



部長のこういうところを人によっては、放任主義と言い、または人によって寛大だと思うのだろう。

俺なら、後者だ。

だからこそ、この人の下でなら気負うことなく、提案が出来て、本番に挑むことができる。

それに、ついさっき小池部長が言った、ほんの些細な言葉が今も頭に残っていた。

『俺が送り出しといてなんだが──』

──俺、本当に見放された訳じゃないんだ。

仮に真実と違ったとしても、前向きで居よう。



「部長」

「どうした?」

「俺、今度こそ頑張りたいです、この営業部で」



俺の言葉に、小岐須部長の目が優しく笑った。



「別に頑張らなくても、程々でいい」

「程々、ですか」

「ああ。ここにお前の敵は1人も居ない。だから、程々にして1人じゃ無理だと思ったら、みんなを巻き込んじまえばいいんだ」



そして、「今日も行ってこい」と部長に背中を押された。

それに声を張って、応える。

営業車を発進させて、しばらく道を進んでも、俺の口元は綻ぶのを止めなかった。
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