お願い!嫌にならないで
水野さんは頷き、遠慮がちに冷蔵庫を開ける。
4、5本の缶を胸に抱えた水野さんに、お盆を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。……水野さん、スーツのままなんですね」
さりげなく尋ねながら、中谷さん達からもらった缶を冷やしておこうと、冷蔵庫へ入れていく。
「そ、そうなんです。まさか2人共、着替え持って来てるなんて知らなくて。辻さんも部屋着だし、私、浮いちゃいますね」
「いや? そうでもないですよ。それより、動きにくくないですか? ジャケットも脱いでもらって良いですし」
「後で、そうさせてもらいます」
ニコッと笑って、リビングへ運んでくれる。
俺も残りの温めた惣菜を運ぶ。
よくあるタイプの木製の長方形テーブルの上は、置き場がないほどに惣菜、缶で埋め尽くされた。
全員がそのテーブルを囲むと、中谷さんが仕切り始める。
「じゃあ、今日もお疲れ様でした。辻さん、今日はお邪魔しちゃって、すみません。場所を提供してくださって、感謝します」
「いえいえ」
「では、乾杯」
中谷さんの号令に従って、缶をぶつけ合う。
仕事終わりの、そこそこに冷えたビールは旨い。
1人きりで飲むより、遥かに旨い。
水野さんを見ると、1口目のビールが勢い良く、喉を通っていく。
「良い飲みっぷりですね」
「仕事終わりですから。いろいろ発散しないと」
笑う水野さんは、本当に楽しそうだ。
緊張しやすくても、人と賑やかにすることは好きなようだ。