お願い!嫌にならないで



「辻さんったら、男気、見せなさいよー」



酔っているのか山本くんは、ふざけて言う。

俺が言ってしまおうかと悩み、水野さんへ助けを求めようとすると、彼女もまた固まっていた。

かと言って、中谷さんの方を見ても、目を逸らされるし。

すると、場の空気を察したらしい山本くんが、少し冷静になる。



「え……? もしかして、NGワードでしたか?」



尋ねる山本くんに、誰も答えようとしない。

中谷さんには伝えてある事実だから、例え中谷さんの口が堅かろうと、いつかは伝わることだろう。

何だか、今更な気持ちにもなってきた。



「──水野さん」

「は、はい」

「この面子なら、もう隠すこともないですよね」

「…………そうですね。この2人なら」



少し間があったものの、了承は得た。

これで何も問題は無い。



「山本さん。ずっと黙ってて、すみません」

「何ですか、急に」

「実は、俺達、もう付き合ってます」

「は……え?」



山本くんは、予想通りの顔をしてくれる。

そして、中谷さんの方を見る。

今この瞬間の驚きを共有してくれる人を求めているのだろう。

しかし、それが叶わないのを、俺は知っているから、少し可哀想に思えてしまう。

更には、中谷さんの大体の性格を分かっているので、次の展開も想像がつく。



「ちなみに、私も知ってたけど」

「え、あきも知ってたの?!」



うん、思った通り。

その様子に苦笑いすると、俺の隣からも声が聞こえてくる。



「あきちゃんは、知ってたの……?」

「はい。あ! でも、隠してるって、事情は辻さんから聞いてたので。口外はしてません、よ……」

「そうだったんだね。あきちゃんなら、別に──」

「あ、あの! 水野さん、それには俺なりに思いがあって」



咄嗟に、口を挟む。

俺の勝手な判断で、中谷さんまで窮屈な思いをさせたことを申し訳なく思う。
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