お願い!嫌にならないで
「お世話になります。エースワン株式会社です」
自動ドアを通り抜けると、水野さんは受付の女性に挨拶をしている。
受付の女性も、とてもにこやかに対応してくれている。
俺は、それを後ろから見守っていた。
「先日は弊社の製品をご注文いただき、ありがとうございました。恐れ入ります。田中様はいらっしゃいますでしょうか」
「はい。おります。少々お待ちください」
受付の女性が奥へ入っていくのを、目で追ったあとに、水野さんへ視線を移す。
また水野さんは、建物に入る前と同じような、凛々しい表情をしていた。
その表情に、今更ながら違和感を覚える。
俺が水野さんの外回りに付き添い始めてまだ日は浅いが、彼女の様子がどこか可笑しいということくらいは分かる。
先程までは、凛々しく思え、美しいとすら思えた。
しかし、違和感を覚えた今、その表情は少し強張っている様に見える。
「水野さん……?」
俺は自分でも気づかないうちに、呼びかけていた。
自分でも驚きだ。
すると、水野さんはゆったりと俺の方を振り返る。
俺を見た水野さんは、柔らかい表情になっていた。
しかし、それもどこか、ぎこちなくて。
「水野さん、大丈夫ですか……?」
俺が問うと、水野さんは不思議そうに首を傾げる。
「大丈夫ですよ?」
何故かしら、水野さんの返事に俺は何も返せないでいた。
無言のままの俺を、水野さんは不思議そうに見つめる。