お願い!嫌にならないで
「や、俺も道を覚えていきたいので」



そんなのは、ただの仕事上の口実だ。

本来の目的なら、他にある。



「ずっと運転してもらってますし、あの……いろんなこともありましたし……」

「それは大丈──

「無理しない方がいい」



俺が少し強めに行ったとき、水野さんは小さく驚いていた。

そのときの彼女は、珍しく狼狽えていた。

困らせるつもりで、言ったわけではなかった。

少しでも落ち着いてもらいたくて、俺は努めて優しい男を意識する。



「全く気とか、使ってもらわなくてもいいですよ。むしろ、何でも言ってください。俺に出来ることなら、力になりたいので」



俺がそう言っているその間、水野さんは目が合ったままで、顔を赤らめさせていった。

ん?え、何その反応。

水野さんの反応を逐一、認識しているのは、不思議と俺も彼女から目が離せなくっているからだ。

必然的に、無言で見つめ合う。

何だか、こちら側まで恥ずかしくなってきた。



「あの、水野さ──

「では、運転、任せてもいいですか……?」



ようやく、水野さんから折れてくれた。

彼女は意外と、自分の意思に頑ななところがある。

芯の強いところ。

そこも、また俺のツボだ。

でも、またそこが少し心配なところではある。

先程のストーカー野郎と言い……

助手席に乗り込む彼女を横目に、つい考え過ぎてしまう。

俺は、彼女の何でもないくせに。
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