お願い!嫌にならないで
廊下を歩いているとき、用を足し終わり手を洗うとき、ふと思った。

──水野さんは平気なのだろうか。

いや、俺が気にすることではない、そんなことわかっているけれど。

だって、ストーカー野郎 田中さんと顔を合わせたとき、気分を悪くするほどに真っ青になっていた。

それでも、今は平然と仕事をこなしている。

これは以前にあった俺の歓迎会の日、一人で外に出て悩んでいたように、また一人で抱え込んでいるのでは?

平気なフリをしているだけなのではないか。

そもそも、俺はあのとき、気の利いた言葉をかけることが出来なかった。

たどたどしい口調だったろう、頼りなく思われたに違いない。

普段の俺なら、もっと違うことを言えたはずだ。

それが、言えなかったのは……



「やべぇな、俺。あの人のこと、相当好きなんだなぁ……」



俺は、あの人の何でもないのに。

あの人と出会ってまだ、そんなに月日も経っていないはずなのに。

鏡に映る自分の顔とにらめっこをした。

今の俺は、女々しい顔をしている。

こんな俺じゃ、きっと水野さんは笑ってくれない。
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