お願い!嫌にならないで
「あの、あなたは……」
「あ……尋ねておいて、失礼しました。私も営業部で、水野と申します。よろしくお願い致します」
「え、あ、あは、よろしくお願いします…!」
この嬉しい展開は、何だ!
思わず、顔がにやける。
お世話になった総務部部長には申し訳ないが、こうなったら営業部も悪くないかもしれない!
ガッツポーズを決めると、不思議そうに水野さんが俺を見る。
頼むから、見ないでくれ。照れるから!
浮かれていると、水野さんが扉の方へ一歩進む。
扉のノブを掴むと、俺の方へ振り返る。
突然こちらを見られると、心臓がいちいち高鳴るからやめてもらえねぇかなぁ。
「入りましょう。営業ミーティングが始まりますよ。きっと、そこで辻さんの紹介もしてもらえますよ」
「は、はい!」
扉を開けると思ったよりも、小さな部屋だった。
うちは中小企業だ。
総務部のオフィスもわりと狭かったが、営業部はそれ以上に狭い。
デスクが7個並んでおり、そこに4人が既に座り、パソコンと向き合っていた。
水野さんと俺と、もう一人来ていないようだ。
挨拶をして奥へと進んでいく水野さんと、その風景をしばらく眺めていた。
「おはようございます、水野先輩!」
「あきちゃん、おはよう」
水野さんに「あきちゃん」と呼ばれた小柄過ぎる女性、というより、幼い女の子に見える子は、水野さんに思いきり抱き着いている。
そして、その体勢のまま、未だ入り口で立ち止まっていた俺の存在に気がつくと、怪訝そうな顔をこちらに向ける。
「何ですか?あの人。もしかして、水野先輩のストーカーですか?」
「ち、違うよ。この後、紹介があると思うけど、あの人は──
「すみません!おはようございます」
水野さんの言葉を遮って、物凄い勢いで部屋に現れたのは、茶髪の青年だった。