お願い!嫌にならないで



「俺が考えたって、どうなるわけでもねぇよな……」



諦めつつ、廊下に出る。

すると、偶然にも部長と鉢合わせた。

何故かしら、部長は少し慌てている様子だった。


「部長、お急ぎですか?」

「おう、辻。ついさっき、妻から電話があって、家の給湯器が壊れたらしくてな。悪いな、先に上がらせてもらう」

「はい!お疲れ様でした!」

「おう。まだ水野が残っているから。あと、戸締まりもよろしくな」

「わかりました!」



部長は片手を上げて、足早に帰っていった。

俺はその背中を見送ったあと、水野さんの居るオフィスへと戻る。

自分のデスクに辿り着き、とりあえず、一度腰を下ろす。

だが、することは特に無い。

急ぎの仕事は、おおかた既に終わった。

明日に回してしまっても、何ら問題は無い。

トイレに行く前は、俺も帰ろうと意気込んでいたのだが、今更ながら、その気が失せつつあった。

水野さんだ。

目の前でパソコンを叩き続ける水野さんを見ていると、とてもじゃないが、帰る気にはなれなかった。

パソコンを叩く作業をしていても、どこか深刻そうな彼女の雰囲気には黙って居られなかった。



「水野さん」
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