お願い!嫌にならないで

まずいな、困らせたかな、とは思いながらも、一度口にしたのだから、もう引き下がれない。

かと言って、引かれたり、無様に断られたら、俺はしばらく立ち直れないかもしれない。

未だに微動だにしない水野さんを、不安に想いながらも見守る。



「み、水野さん……?」



呼び掛けると、水野さんは我にかえった様で、不思議そうにする。



「どうしてですか?」



うん。その反応は、正しいと思う。

まさか、そんな返しをされるとは!とは思ったけれど。

水野さんの純粋な疑問に、思わずこちらが戸惑う。



「や、あの、俺が今日、呑みたい気分で!でも、一人酒は寂しいなぁと思ったんで……よければ!俺、奢りますし」



言い訳が、苦しいか?



「あ、嫌なら全然断ってくれても……」



水野さんの様子を窺う。

一度、俺から目線を外したが、直ぐに俺を見た。



「行きます」

「え」

「行きたいです」



水野さんは、大好きなおもちゃを前に「待て」をしている飼い犬の様に、ワクワクした表情をしている。

これは予想外だ。

今度は、俺の動きが止まる。

だが、身体は正直だ。

顔がみるみるうちに、熱くなっていく。

今、俺は猛烈に喜んでいる!



「なら、どこが良いですか?事前に電話しときます!」



浮わついた気分の俺も、自分のスマホを取り出す。

しかし、水野さんは横に首を振った。



「事前予約は、いいです。一人なら退屈でしょうけれど、二人でお話していれば、待ち時間なんてあっという間ですよ」



直接的には言われていないのに、感じてしまう。

俺、少しは信用されている!

そして、間もなく終わるという、水野さんの入力作業を待って、戸締まりをしたオフィスを後にした。
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