お願い!嫌にならないで



「さぁ!何が食べたいですか?」

「辻さんのオススメのお店は、あるんですか?」

「それなら!焼き鳥の美味しい店があって!アルコールも種類豊富で!どうですかね」

「いいですね。そこが良いです」

「決まりですね!」



足取り軽く、エレベーターに乗り込む。

そして、紳士を装い、エレベーターのドアを手で押さえる。

ありがとうございます、なんて控え目に言って、俺の横に並ぶ彼女に、つい目がいってしまう。

それを、必死になって堪える。

この時間と空間が嬉しいはずなのに、耐えられない気分だ。

我ながら、不思議だった。

1階に降り玄関を出たとき、少し遠くの方に、人が一人いるように見えた。

何故かしら俺はそれが気になり、目を細めて、よく見た。

それは確かに人で、その人は俺達に気付くと、何を思ったのかどんどんと近付いてくる。

相手の顔がわかった瞬間、俺よりも半歩後ろにいた水野さんの方が、先に顔を強張らせていた。
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