お願い!嫌にならないで
水野さんは、声も出ない様子だった。
彼女の代わりに俺が、相手をしてやる、そう思って、一歩前に出た。
「……田中さん?でしたね、たしか」
「どうも、こんばんは」
かろうじて、奴の名前が出てきた。
俺の中では、奴は「ストーカー野郎」でしかない。
それ以上でも、それ以下でもない。
奴は爽やかでいて、違和感のある微笑みのままでいる。
そもそも待ち伏せしていたのか?
薄気味悪い。
「どうして、こちらに?もしかして、何か御用でしたか」
俺が問いかけたところで、やはり奴はまともに応えもしない。
俺には微塵も関心が湧かないのだろう。
先日、初めて顔を合わせた時点で、そんなことは分かりきっていた。
奴の関心はただ一つ、水野さん。
今だって、奴の意識は水野さんにしかいっていない。
先ほどから、俺の後方ばかりをチラチラと見ている。
「あの……生憎ですが、本日の営業は終了致しましたので──
「今まで、二人で仲良く残業していたんですか」
「はい?」
「俺と二人きりは、あんなに嫌がったのに」
そう言った奴は、 水野さんをじっと見つめる。
自覚が無いのか?
彼女に嫌悪を抱かれているという、その自覚が。
彼女も大変迷惑しているのだ。
本来なら首を突っ込むべきではない俺も、一言余計なことを言ってやる!