お願い!嫌にならないで
俺が息を吸い込み、声を張ろうとした。
「あんたっ……」
思わず、息が詰まった。
「みずの、さん?」
意気込んだはずの俺の言葉の先が詰まってしまったのは、彼女が突然に動き出したからだ。
俺の真横を通り抜け、水野さんからゆっくりと、奴の方へ進んで行く。
少し足が震えているようにも見える。
だがしかし、背筋はピンと伸びていて、後ろ姿はむしろ堂々としていた。
そうは言っても、やはり心配だ。
彼女にとって、奴は天敵なのだから。
慌てて、俺は水野さんの手を掴んでしまった。
それなのに、水野さんは落ち着いた様子で、振り向いて俺を見ると、一度頷く。
そして「だいじょうぶ」と唇が動いたのだと思う。
思わず、綺麗な口元に見とれてしまい、掴む手の力を緩めてしまった。
俺の馬鹿!
水野さんの手首が、俺の手の中からすり抜けていった。