お願い!嫌にならないで
「まり」
「……親しくもないのに、その呼び方はやめてください」
「本当につれないなぁ。あ、これから、久しぶりに飯行かない?」
「久しぶりも何も、あなたとご飯に行ったことは一度ありません」
「あれ?そうだったかな?まあ、いいや。再会した記念に行こうよ。運命感じるし」
しつこくせがむ奴が、だんだん可哀想に思えてくる。
一体、俺はこの状況を、誰目線で見ているんだ。
水野さんの手が震えだす。
そんなタイミングで、奴が水野さんの正面に立ち、肩へと手をのせて迫る。
おいおい!まずいだろ!
あんたも、どこまで鈍感なんだ!
いや、わざとなのか?
自然と、俺の足が半歩前に出た。
その瞬間、パチンッと乾いた音が辺りに、それはもう強烈に響き渡った。
「あなたはいつまでも、私に執着しているようだけれど。ごめんなさい。私はあなたよりも、はるかに好い人を知っています」
奴はいつの間にか、水野さんとの距離がほんの僅かに離れている。
あまりに突然のことに驚き、後退りしたのだろう。
そして、あとは衝撃のせい。
奴も呆然としていたが、俺も同じだった。
開いた口が塞がらない。
だが、納得はしていた。
実際のところ、俺が奴に何か言ったり、行動に出たところで、奴には何も効かなかっただろう。
水野さん本人から、直接的にされたからこそ、このように堪えたはずだ。
「さようなら」
すると、水野さんは間抜け面の奴を一瞥し、俺の元へと戻ってきた。
「辻さん、行きましょ」
真っ直ぐに俺を見つめて、そう言う水野さんから、また目が離せなくなる。
この人、なんて強い人なんだ。
まずいって。
どんどん惹かれていく。