お願い!嫌にならないで
すると、その青年は誕生日席のポジションに座る、お堅そうな男性の元へと駆け寄っていった。
誕生日席は、おそらく部長だろう。
「小岐須部長、俺、遅刻になりますか?」
「ギリギリアウトだ。もっとゆとりを持って来い。社会人としての自覚は無いのか」
「申し訳ありません!」
「小岐須部長」が青年から俺へと視線を移すと、ゆっくりと立ち上がった。
「さて、ようやく全員揃ったな。君も、いつまでもそこで突っ立っていないで、こっちへおいで」
手招きをされ、おずおずと促されるまま進む。
「さあ、どうぞ」と小岐須部長に、自己紹介をふられた。
ここでまた、新しいことが始まる。
一から勉強せねば。
顔こそ熱いが、気持ちは意外と高揚している。
「本日より、営業部に異動となりました、辻 泰孝と申します!営業自体、初めてですので、何かと至らない点があるかと思います。でも、精一杯の努力をしてまいりますので、どうぞよろしくお願いしますっ!」
勢いよく頭を下げ、恐る恐る頭を上げる。
虚しいことに、反応が薄い。
しまった…と内心、頭を抱える。
その数秒後、誰かが吹き出す音が聞こえた。
その方向を見ると、水野さんだった。
たとえ、反応をくれたのが水野さん、たった一人でも俺には、彼女がウケてくれたという事実が嬉しくて堪らなかった。
水野さんと目が合うと、小さく拍手をしてくれた。
その仕草にグッときてしまった俺は、変人なのかもしれない。
すると、水野さんの拍手に合わせて、あのお堅そうな部長までもが、手を叩いてくれた。
「威勢の良い奴が来るとは聞いていたが、正しくだな。いいね、辻くん。俺は気に入った」
「ありがとうございますっ!」