お願い!嫌にならないで
「な、なんか、すみません。入店早々、騒がしくて」
「いいえ。辻さん、ここの大将と親しそうですね」
「ああ、まあ。地方から出てきてから、ずっと通ってる店なんですよ。大将と初めて会ったときに、意気投合しちゃって……ずっとこの調子です」
「良いじゃないですか」
「あはは、ここは本当に、俺のお気に入りなんです。食い物も酒も旨くて、最高ですよ」
だから、水野さんにも気に入ってもらえたら嬉しいです。
なんて、そんな言葉で、ここで営業かけたって、きっと水野さんを困らせるだけだ。
得をするのは、ここの大将と、そして俺だけ。
「そうだ。水野さん、何飲みます?」
「じゃあ、まずは生からで」
「お!いける口ですか?」
「うーん、嗜む程度です」
「またまた、そんなこと言って。あと、食べ物はどうします?」
「もちろん、辻さんオススメの焼き鳥をいただきたいです」
駄目だ。
水野さんから、そんな笑顔を向けられたら、駄目だ。
やられてしまう。
このやり取りだけで幸せなのに。
この先はあるのか……なんて考えたりなんてしている。
これ以上は、これ以上を望めば、バチが当たるんじゃないだろうか。
まだアルコールを一滴も含んでいないくせに、俺の顔面から首筋にかけて、勝手に火照り始める。
目の前のおしぼりを首筋にあて、どうにかこの火照りを鎮めようとした。
しかし、たったおしぼり一枚なんかでは、到底足りない。