お願い!嫌にならないで
水野さんは容姿からは想像できないほど、意外とたくさん食べていた。
そして、俺はと言うと、ほぼいつも通りのペースで呑み進めて、ほろ酔い気分だった。
彼女を少し、覗き見る。
頬を染め、満足気に頬杖をついていた。
可愛い。
いつもは大人っぽいのに。
俺が声をかけると、やはりこちらを見てくれる。
「もう良いですか?」
「はい。お腹いっぱい、胸いっぱいです」
「それは良かった。大将!お会計、お願い」
「はいよ」
笑顔の大将が、手拭いで手を拭きながら、こちらへ歩み寄る。
会計を済ませて、賑わって熱気のあった店内を出ると、外の気温は少し低く感じた。
「辻さん、ご馳走様でした」
「いえ。お気になさらず」
「でも、本当に良かったんですか?奢ってもらっちゃって……」
「良いんです。むしろ、逆に俺の晩飯に付き合ってもらったんですから、こちらがありがとうございました」
俺が軽く頭を下げると、水野さんは慌て気味で「そんな」と謙遜している。
だが、本当のことだ。
いつもと違う水野さんの一面を見れて。
満足そうに焼き鳥を頬張ってくれて。
俺が楽しませてもらったのだから。