お願い!嫌にならないで
「つ、辻さんもなんですね」

「何駅で降りるんですか?」

「あっ、私は秋津です」

「ありゃ、降りるの俺より後になっちゃうんですね」



このとき、密かに見送ってあげられないことを、残念に思っていた。

俺もストーカーに、似たり寄ったりか?

いや、違う。

これは、そういうことではない。

女性より先に去るなんて、紳士っぽくない。

そういうことだ。

とか何とか言って、俺に紳士なんて程遠いけど。

仕様も無いことを考えていると、水野さんが会話を続けようとしてくれる。



「そ、そうですね。辻さんは?」

「俺は、ひばりヶ丘です」

「そうですか……」



他の人から見れば、何の変哲もない会話だろうが、俺からすれば何処かぎこちない。

その証拠に。



「水野さんは……」



ほら。また、だ。

水野さんと視線が合わない。

俺が話しかけると、いや、視線が逸れるのは、目が合った直後だ。

バッ、と結構、体ごと豪快に逸らされる。

せめて、原因がわかれば良いのだが。

俺が肩に触れてしまったせい?

それとも、顔を覗き込むような真似をしてしまったせい?


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