お願い!嫌にならないで
つい先ほどまで、気まずそうにしていた彼女の表情は、また変わっていた。
水野さんは、笑っている。
控え目に上がった口角が、僅かに震えている。
また、無理をして。
「水野さん……」
「本当は恐くて、手も足も震えていたんです。そのときの会話なんて、何にも覚えていないくらい。全然、格好良くなんて、ない」
「あ……」
俺はそのとき、そのときに思い付いたことを、直ぐに口にしていた。
どれが禁句かなんて、気にしてもいなかった。
確かに、あのとき水野さんの手が震えていた。
あれは、怒りに震えていたのではなかったのだ。
本当は違った。
怖かったんだ。
あのとき、隣に男の俺が居るにも関わらず、彼女に怖い思いをさせてしまった。
あまりにも無神経な自分に、平手打ちをかましてやりたかった。
「……そりゃ、怖かったですよね。苦手な男相手なら、尚更……」
「いえ」
「すみません、守れなくて」
暫しの沈黙が流れる。
水野さんからの反応が、返ってこないのも辛い。
呆れられたか?
それとも、気味悪がられているか?
内心、頭を抱えていると、小さな声で水野さんが言った。