お願い!嫌にならないで
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「みんな、飲み物揃ったか?」
全員の帰社後、わりとお洒落な個室のある、それでもってしっかり飲み食いもできる店に来ていた。
回りを見渡す部長が、ジョッキの生ビール片手に立ち上がる。
「まずは、みんな。今日は、ご苦労様でした。そして、辻くん。きっと不本意だったろうが、それでも営業部へ来てくれて、ありがとう。歓迎するよ。では、これからのエースワン株式会社のますますの発展を祈って…乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
ここは一度に、宴会という雰囲気に変わる。
お洒落な雰囲気も何もない。
しかし、俺は先程の部長の音頭の中で、一つだけ仕様もないことを考えていた。
何故、俺が半分嫌々、駄々をこねて、ここへ来たことを部長が知っていたんだ?
「不本意」だなんて。
「辻くん」
「…っ、はい!」
横に座る部長から偶然、突然に声をかけられ驚く。
そんな俺を見て、部長は控え目に口角を上げた。
「君も緊張というものをするんだな」
「そ、そりゃ、もちろんです!」
「ここでは楽しくしてくれればいい。あのお堅い総務とは……いや、失礼。君が居たところの愚痴はいけないな。今のは忘れてくれ」
「いえ、俺も少しはそう思ってますんで、気になさらないでくださいよ」
「悪かった。で、一日目はどうだった?」
「そ、それは、もう……幸先良いスタートが切れたかと……」
「何だ、その自信の無さそうな言い方は」
俺は苦笑いをして、部署内、たった二人の女子同士で戯れていた水野さんへ目をやった。
俺の視線に気がついた水野さんが、微笑みながら部長に代弁してくれる。