お願い!嫌にならないで
「水野さん」
「っ!はいっ」
水野さんの声が裏返った。
本人もそれを気にしているようで、小さく咳払いをして誤魔化している。
顔も相変わらず、赤みを帯びている。
それにしても、やはり他の人と話すときと、俺のときとでは、全く違う。
気付けば、自分でも驚くほどに、ショックを受けていた。
それでも、ここで止めては駄目だ。
自分の願望だからなのかもしれないが、嫌われているわけではないように思える。
「あのー、この契約書の作り方を教えてもらいたいのですが」
「あ、これ……これですね。こ、これは……」
水野さんに契約書を見せるように差し出すと、彼女はそっと俺の手から受け取ってくれた。
彼女の耳がとても赤い。
ついつい、そんなところにばかり、目がいってしまう。
水野さんが書類に目を通す間、彼女を観察していた。
すると、水野さんは書類の文字を、なぞっていた指を止めた。
「あれ?確か、今日は、山本くんと同行してもらっていましたよね」
「はい。そうです」