お願い!嫌にならないで
「取引先の担当者様、皆さん、彼のことを『元気が良い』『にこやか』『ハキハキしている』と好評してみえましたよ」
「ただ、その一方で俺の声が『喧しい』から、水野さんのままがいい、と仰る方もいました…」
肩を落とす仕草をすると、部長は高らかに笑い出す。
オールバックで、このお堅そうな雰囲気だから、こうも表情が豊かなことには、ずっと驚かされている。
「問題ないさ。知っているとは思うが、長所と短所は常に紙一重だ。それを言われただけじゃないか。人によって、感じ方が違うだけ。その『喧しい』といった人も、結局は元気が良すぎる奴だな、と思ってくれたんだろう」
そして、未だに笑いが抜けないのか、微笑んだままでビールのジョッキをぐいっと傾ける。
ジョッキを机に置くと、俺を見て二度頷いた。
「心配する事ぁないさ。君だけのスタイルでいいんだから。頑張れ」
だから、何なの。この部署。
異動早々、2回目泣きそうだ。
泣きそう、というより、既に泣いている俺の背中を擦ってくれる部長。
「まあ、飲め飲め」なんて言ってくる。
だから、ここは一体、何て言う名の楽園なの!
自身の手で、涙を拭う。
自分の手が横にスライドされたとき、斜め前に座る中谷さんと目が合った。
さっきから気になっていたのだが、中谷さんとその隣に座る茶髪の青年が異常に親しげなのだ。
茶髪の青年とは、今朝、ギリギリアウトと遅刻をかましていた奴だ。
涙目のままで、彼等に向かい、疑問をストレートに投げる。
「お二人は付き合っている……感じですか?」
「だったら、何すか」
「いやいや、仲良さそうだなぁと思って。それだけです」
意外にも茶髪の彼が、黒い笑みで答えてくれた。
小さな中谷さんを物理的に、守る体勢に入る。
いやいや、俺のタイプは可愛いよりも、綺麗系だから!
仮に派閥があるなら、俺は水野さん派だ!心配無いからな!