お願い!嫌にならないで

「あ、いやいや、そうじゃなくて……」



あの普段クールで腹黒で、すかしている山本くんが、珍しく焦っている。

この状況は、なかなか貴重だ。

それより水野さんも、予想外だった。

かなり、ピリピリしている。

確かに、人に仕事をぶん投げたとなれば、叱るのは当然のことだが、今回のこれは違う。

山本くんが、俺に気を利かせてくれたのだ。

俺の言い方一つで、流れ弾の被害を被ることになってしまった山本くんには、非常に申し訳ない。

急いで、水野さんを落ち着かせようと、弁明を図る。



「水野さん、水野さん!違うんです!俺がいろいろ覚えていきたくて。俺がしゃしゃり出ちゃったんですよ!」

「本当ですか?辻さん、山本くんのこと、庇ってませんか?」

「本当!本当です!」



水野さんはじっと、俺を見てくる。

完全に疑われている。

嘘を吐いて、少しの罪悪感はあるが、山本くんの厚意を無下には出来ない。



「ほら!お客様との契約書って、重要書類じゃないですか。だから、出来ることなら、一から理解して覚えたいなぁ、と思い……」

「山本くんも説明出来るくらいには、知っているはずです」



水野さんは、やはり手強い。

どうしよう。

返す言葉が見つからない。



「いや、ほら!あの──
< 71 / 239 >

この作品をシェア

pagetop