お願い!嫌にならないで
「この契約関係は、水野さんが昔から担当していたじゃないですか。だから、予備知識とか知りたい辻さんには、水野さんから説明を受けた方が、自分は納得してもらえると思います」
おお……水野さんがほんの少し、怯んだ。
綺麗な返しを見せてくれた山本くんを、思わず拝む。
あと、もう一押し。
「それに俺だと、にわか知識を教えてしまうといけないので」
「そうですよ。山本さんだと、いい加減に教えてきそうじゃないですか。だから、水野さんの方が頼りになると思って……」
「ちょっと、辻さん。それは俺も傷付きます」
「あ、すみません」
「俺はこんな感じで、適当にしてそうと思われがちですが、仕事を疎かにしたことはありません」
「山本さん、本当にすみません」
「許しません」
「すみません」
俺と山本くんが半分ふざけて、そんなやり取りをしていると(もしかすると、山本くんは半分本気かもしれない)、水野さんが吹き出した。
俺は、それに驚く。
本当につい先程まで、深刻な顔で山本くんを注意していた水野さんが、声を抑えて笑っている。
こちらを向いた彼女は、笑顔のままだった。
「ふふふ。もう……敵いませんね」
水野さんがそう言ってくれたとき、俺はとても嬉しくなった。
彼女は気付いているのだろうか。
久しぶりに、目を合わせることが出来ていることに。
どうやら、嫌われているなどと不安になる必要は無いようだ。