お願い!嫌にならないで
くすくすと笑い続ける水野さんに対して「やっぱり笑顔が素敵だなぁ」なんて臭いことを思う。
でも、本当だ。
久しぶりにこちらを向いたままで、笑ってくれていることが堪らなく嬉しくて、思わず頬が緩む。
すると、そのときだ。
また水野さんの動きが止まった。
あのときの、一緒に晩飯に行って、店を出たあと、立ち話をしていたときの、反応と全く同じだ。
そして、またあのときのように顔を赤くし直して、水野さんはゆっくりと目を逸らしていく。
目を逸らす水野さんから、俺は目が離せないで居た。
こんなときでも、冷静に考えていた。
あのときと今、共通点は一体何だ?
端から見れば、不動状態の俺に水野さんは謎なタイミングで会釈をし、デスクに座り直そうとする。
「ちょっと待って」
思わず、発していた。
自分自身が必死になっていることが、自分でもよく分かる。
だが、そんなこと当たり前だ。
だって、ここ最近、多少は親睦を深めることが出来て。
彼女が俺に、具体的な悩みを打ち明けてくれた。
そんな彼女が突然、素っ気なくなって。
そうして今、せっかく目を合わすことが出来たのに。
このままでは、また背を向けられてしまう。
こんな悲しい想いは嫌だし、何と言ってもモヤモヤする。
ここは会社なのに、何故か仕事以外のことで、とても必死になっている。
それが水野さんには、届いているようだった。
「………………つじ、さん?」
「契約書の書き方を教えてほしいというのも、もちろんあるんですが、これから少し……お話出来ませんか。場所を変えて」