お願い!嫌にならないで



しかし、それと同時、いや、それよりも速く水野さんの方から歩み寄ってきてくれた。

一度に縮んだ距離に、驚きが隠せない。



「みず──

「何もしてません」

「え」



俺が名前を言いかけたところに、彼女は台詞を被せる。

少し混乱状態に陥っている俺は、つい先程、自分が何を言ったかも分からなくなっていた。

そんな俺をわかってかどうかは知らないが、水野さんは再び俺に訴える。



「私の嫌がることなんて、何もされていません」

「俺のこと、気持ち悪くないですか」

「そんなこと!むしろ──

「むしろ……?」



俺が聞き返すと、水野さんはしどろもどろになり始めた。

やっぱり例の如く、また顔が、耳が終いには首までが紅く染まっている。

そんな彼女を見ていると、俺までドキドキしてくる。

このときばかりは、いくら鈍い俺でも──



「『むしろ』何ですか…………?」

「いえ、何もありません。間違えました」

「俺、馬鹿なんで、ガツンと言ってもらわないと分からなくて」

「そ、そんなことないじゃないですか。辻さん、仕事の理解も、物凄く早いですし……」



少しでも勘づいてしまった俺の口元は、勝手に引き上がってくる。

いわゆる、ニヤケ顔になっていることだろう。

俺の思っていることが、正解だとは限らないのに。

ああ、今すぐこの顔を鎮めたい。

例え、口元のニヤけが僅かなものであったとしても、気味悪がられるのは絶対だ。

それは、嫌だ。

そう思い、口元を手で覆う。

そして、水野さんの反応を再確認しようと、目線を向けたとき。
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