お願い!嫌にならないで



彼女はまた、ぎょっとしている。

駄目だ、めちゃくちゃ期待する。



「いやいや、仕事は水野さんの教え方が、素っ晴らしいからですよ」



彼女は「そんなこと……」と謙遜をする。

これも、本当のことなのに。

すると、謙遜と恥ずかしさからか、視線が下がり気味だった水野さんが、何かを決意したかのように、突然に俺の方を見た。

そして、しっかりと俺の目を捕らえる。

緊張しているであろう、その水野さんの表情を見ると、余計に俺の顔は火照り出した。



「辻さんは私が言わなくても、いつも私の欲していることを必ず当ててくれますよね」

「えっと……」

「私の心、読めちゃうんですか?」

「ちょっと、水野さん、ハードル上げないでくださいよ。プレッシャー感じちゃうじゃないですかー」

「プレッシャー……やっぱり、気を遣ってくださっていたんですか?」

「いやいや!無意識ですよ!むしろ、そんな風に思われていたなんて。驚きましたけど、安心しました」



水野さんが、いつも欲しているところ。

そこにちゃんと、応えることが出来ている。

それだけで、安堵の溜め息が漏れた。

嬉しすぎて。

今度は俺の溜め息に水野さんが微笑んでくれる。

もう、どうにかなりそうだ。

それなのに、彼女は尚も俺に、こんな言葉を向けてくれる。



「本当に。それどころか私すらも、そのとき思ってもいないのに、辻さんは心地好いところを当ててくれるんです」

「そんなこと言われたら、俺──



本当に、どうにかなりそう。

俺、今、勢いだけで水野さんに、告白してしまいそうだった。

それを慌てて、止めたけれど。
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