お願い!嫌にならないで
妙に引っかかる気持ちのままで、部長の元へと向かう。
「小岐須部長、お呼びでしょうか」
「おう、おはよう。水野から、話は聞いているか?」
「いえ、何も」
「……そうか。まあ、いい。辻、今日から一人で外回りに出てもらおうと思う」
「は、はい……!」
「やけに嬉しそうだな」
「いえ。そんなつもりは無いのですが」
嬉しいわけではない。
初めての一人で外に繰り広げるというのだから、異常な程に緊張しているだけだ。
そして、一人で取引先に行かせてもらえるようになるということは、彼女と口約束していたことを、ようやく実行することができる。
「どうだ、しばらく山本や水野の後をついて、回ってみて」
「はい。細かい部分まで丁寧に教えてもらって、非常に助かりました」
「そうか。それなら、良かった。またわからないことが出てきたら、聞いてくれたらいい」
「ありがとうございます。あの、部長。早速なのですが、ご相談があります」
「何だ」
まだ営業経験の浅い俺がこんなことを言って、許されるだろうか。