お願い!嫌にならないで
今更になって、少し不安になってきた。
「先日、ご注文いただいた新規の取引先があったかと、思うのですが」
「……ああ、水野と一緒に同行してもらったところか」
「ええ。そちらの担当に、僕をつけていただけないでしょうか」
「えらく、やる気があるな」
小岐須部長の目付きが鋭くなった。
俺もそれに負けないよう、気合いを入れる。
部長をしっかりと見て、言った。
「…………やらないといけない、理由があるんです」
俺が力を込めて言うと、部長は少し引いていた。
「水野さんのことを守る」と確かにこの口が、水野さんと約束をしたから。
このまま何もしなかったら、水野さんに嘘を吐くことになる。
そんなこと、決して出来ない。
しかし、部長は当然、すんなりとは受け入れてはくれない。
そりゃ、そうだ。
仕事は遊び、賭け事ではないのだから。
「そこの取引先でなければならない理由は?」
理由を水野さんの許可も無く、部署内に内容を広められない。
小声で、部長に伝える。
「相手の担当者は、田中と言います。部長、聞き覚えはございませんか」
「田中?そんなありふれた名前……」
「水野さんに関連する田中と言ったら」
部長が、僅かに目を開く。
「あいつ、だったのか…………?」
「ええ。水野さんが真っ青な顔をして、教えてくれました」