あのとき離した手を、また繋いで。
夏休みに突入して1週間が経った日曜日。
初めて桐生くんの家にお邪魔した。
家の最寄り駅から2駅目のところ、そこから徒歩5分ほどの場所にあるマンションの6階。
駅で待ち合わせをして、ふたりでそこまで向かった。
なかに案内されるとこれから出勤だというお母さまがいらして慌てて頭を下げた。
「こんにちは」
「あら、こんにちは」
桐生くんはきっとお母さん似なのだろう、とても綺麗な人だ。
「じゃあ仕事行ってくるけど、変なことしちゃダメよ?」
「しねーよ。早く行けって、遅刻すんぞ」
「本当に口悪い子ね。ごめんね、モナちゃん。じゃあ行ってくるわね」
「あっ、行ってらっしゃい!」
見送ると笑顔で家を出て行かれた。
リビングのソファーを指しながら「座れば」と桐生くんから言われたので控えめに座った。
「お母さん看護師だっけ?」
「ん、そうだけど。オレンジジュースでいい?」
「なんでもいいよ」
「ん」
テーブルの上にオレンジジュースが入ったマグカップが置かれた。
ありがとうと言うと桐生くんが自然な流れで私のとなりに腰をおろした。
ソファが軋む。目の前のテレビはつまらなそうなワイドショーを流している。
「……変なことする?」
「はっ?いきなりなに!」
「ばーか、本気にすんな」
冷めた目で見られてなぜか冗談を本気にしてしまった私が辱めを受けている。納得がいかなすぎる。
「髪の毛染めるんだろ。準備すんぞ」
自分からふっかけといてさっさとやろうぜっておかしいでしょ。あーむかつく。
なんてぶーすか怒りながらも、この前1学期の修了式の日に買った塗料たちを説明書通りに混ぜ合わせていく。
「なに怒ってんだよ」
「怒ってませんー」
「そんなに変なことしたかった?モナって意外と変態?」
「バカ、ほんとバカ」