あのとき離した手を、また繋いで。


写真撮影で笑っているときも、心の温度に変化はなかった。



「おい、そろそろ行こうぜ」



桐生くんに声をかけられて、頷いた。
これから一度帰宅して、クラスのみんなでカラオケに行く予定だ。
広い部屋を既に予約してあって、そこで最後の集まりをしようとクラスのまとめ役でもあった水無瀬くんが企画したのだ。


卒業証書とアルバムを手に先に進んで行った桐生くんを追いかける。
廊下に出ると「また後でねー」なんて声をいくつかかけられて「うん、あとで!」とまとめて返事をした。


前に向き直って一歩を踏みだした瞬間、視線の先から夏希がこちらに歩いて来ているのが見えた。ちょうど前方を歩く桐生くんとすれ違っていた。


条件反射のように息がつまる。目は若干大きく見開いていた。
こんな偶然、これまでも幾度となくあったよね。でも、これが正真正銘のラストだ。


私たちはきっともう二度と会うことはない。


そうでしょう?


これから別々道を行くのだから。もう私たちの進む道が交わることはない。進路が違う。心の方向も違う。もうあの頃に戻ることなんてできない。


目を合わさないように、お互いに前だけを向いて。



「…………」

「…………」



迷うことなく進んだ。横を通り過ぎる瞬間、静電気が走るように胸がズキッと痛んだが、もう気にしない。


さようなら。私の初恋のひと。
いつまでも元気で。明るく、笑顔の絶えない君でいて。


大好きだった。本当に、心の底から。



「遅ぇよ」

「ごめん、ごめん」



立ち止まって私のことを待ってくれていた桐生くんに笑って追いついた。
桐生くんは私の顔を見ながら「いいのか?」と一言。なにが?とは聞かなくてもわかっていた。



「いいの」



清々しく、私も同じように一言だけ。
それから桐生くんの腕を掴んで「行こう」と前に進んだ。


これでいいんだ。
これでさよならできるんだ、ようやく。


< 113 / 123 >

この作品をシェア

pagetop