あのとき離した手を、また繋いで。
物理的に会わなくなったらきっと心のなかのモヤモヤも消えるはずだから。
「なあ」
「ん?」
「ちょっといいか?」
昇降口で靴を履いていたら、桐生くんが改まった様子で話しかけてくるものだから、なんだかこっちまで改まってしまう。
目をしばたかせて「なに?」と声を絞り出した。
「あのさ、俺、よくよく考えてみたらお前にちゃんと気持ち伝えてなかったよな」
「え?」
風が吹く。私の長い髪の毛が揺れる。
「俺、お前のことが好きだ」
突き抜けた。言葉が、空気が、心に、身体に。
知っている。十二分に知っていることだ。
でも、目を見て、真剣に言われると、なんだか照れ臭くなってしまう。
なんと答えたらいいか迷っていると「大丈夫、俺、まだ待てるから」と桐生くんが言った。
「あと何年でも待ってられる」
綺麗な切れ長の目の際が優しく微笑むことで下がる。1年前より、桐生くんの表情は柔らかいものになった気がする。
ぽかぽかと温度のなかった心が、袋から取り出されたばかりのホッカイロのようにじんわりと熱を帯びる。
「待たなくていいよ」
「え?」
「ううん、もう、たくさん待たせたよね」
桐生くんの手を取る。両手で包んで、目を閉じる。
この大きな手に、何度も私は助けてもらった。
最初の強引さには困らせられたけれどね。
「桐生くん、私の恋人になってください」
目を細めて、笑ってみせた。
そしたら桐生くんが目頭をおさえるものだから「もしかして泣いてるの?」と茶化すように聞いた。
ごめんね。たくさん悩ませたね。待たせてごめんね。
それでもちゃんとこれから君を好きになる。
初恋のひとよりも、ずっとずっと。
きっと君を好きになってみせるから。