あのとき離した手を、また繋いで。
となりには愛しい君がいる。
目を丸くして、どうしてここにいるんだとでも言いたげな顔で。
「まさか、ここにいたなんてね」
「…………」
「会えてよかった。会いたかった、ずっと……っ」
会えた喜びに涙が溢れそうになる。
目の前の波たちは押し寄せては引いて、押し寄せては引いての繰り返し。
波の音は聴いていてとても居心地がいい。
たくさん、たくさん、遠回りをしたね。
だけどようやく君のところへ戻ってくることができた。
ここからまた恋をはじめよう。
ふたりでまた、この世界が生み出した"永遠"という憧れをもって。
あのとき離した手をまた繋いで。
「夏希、がんばったね」
最期まで、死ぬことがわかっていた黒木さんのそばにいて、寄り添い続けた夏希。
その夏希の気持ちを推し量ると、とても涙せずにはいられない。
「……っ……」
いま君の頬をつたう涙がなによりの証拠だろう。震える背中に手をあてがった。そのまま上下させて落ち着くまでさすった。
そして、夏希。君に伝えたいことがある。
「夏希、もう離れないでね」
もう、二度と、離れないでいてほしい。
私と、ずっと一緒に居続けてほしい。
夏希が目を見開く。
「……うん。もう離れない」
唇を一度閉じて、再び口を開いた夏希がそう言った。
あの頃、私たちの恋を邪魔していたものはただの黒木さんの嫌がらせだけじゃない。
もっと大切なことがあった。
どんなことがあっても離れないという決心。
この"君を好きだ"という気持ちがなくならないのは私のなかですでに証明された。
どんなに離れていても、次の恋をしようと思っても、無理だったから。
好き、好き、大好き。君が、君だけが。
これだけは私のなかの永遠。
きっとそれはこれからの日々で証明していく。
さざ波の音に身を委ねるようにふたり寄り添って瞳を閉じた。
それはまるで永遠に続く恋が再生を始めたかのように穏やかなときの流れだった。
【おわり】