あのとき離した手を、また繋いで。
気のせいじゃないと、困る。
そして、ふたりの関係ってなんだろう。
……やっぱり恋人、かな?
あ、また胸がチクッてした。……なんで?
「ねぇ昨日の聞いた?」
「ああ、ナツが橘さんかばったってやつ?」
「聞いた聞いた」
聞こえてきた話題に進めていた足を止めた。
噂は、どこにでも転がっているらしい。
噂は私をどこまでも追いかけてくる。
そのまま教室に入ることができずに、廊下でひとり立ち止まる。
扉は開いている。中にいる人たちに気づかれないように身体をドアでそっと隠した。
「ほんと最近ナツ、橘さんとばっかいるよね。まさか好きなのかな?」
「えー!私ナツ狙ってたからイヤなんですけどぉ!」
「橘さんってエンコーしてるんでしょ? ナツまで誘惑するとか最低じゃん」
私の気持ちなんてまるで無視された発言。あまりの悔しさに唇を噛んで握りこぶしに力を込める。
私じゃない私。周囲の中で凝りかためられたイメージが本当の私を侵食していっている。
みんなの中で私はエンコーして、おじさんと不倫している異質な女の子。
だけど本当は違う。そんなの私じゃない。
エンコーなんかしてない。おじさんと不倫なんてしないよ、するわけないじゃん。
なんで?
どうして、私ばっかりがこんな目に合わなくちゃいけないの?
「でもやっぱりナツも顔かぁ……」
「うん、なんかショックだね」
彼女たちの言葉にうつむけていた顔を上げた。
私のせいで夏希が悪く言われている……?
そんな、なんで……っ?
夏希は関係ないのに。
「……モナ、下がってろ」
言葉を撤回してもらおうと教室へ足を一歩踏み出そうとした瞬間、夏希が私の横を通るのが見えた。咄嗟に彼の腕を掴む。
行かないで……っ。
「……モナ?」
「いいの、べつに、慣れてるから」