あのとき離した手を、また繋いで。
「好きなんだ、俺、モナのこと……」
波打つように全身へ。衝撃が身体中を駆け巡る。
え、今、なにを言われた、私……?夏希が誰を好きだって……?
そのとき、教室から「夏希ー?」と彼を呼ぶ女子たちの声が聞こえた。掴まれていた手を強引にふり解く。
この場面を見られてはいけないと瞬時に思ったからだ。
夏希が驚いたように目を見開いた。私は目線をそらした。
「モナ……?」
「私はあんたのこと……嫌いだから」
廊下に出てきた女の子たちが私たちのことを見て驚く様子が視界の端で確認できた。すぐ目の前にいる夏希の表情は怖くてとてもじゃないけれど、見れなかった。
身体を180度回転させると、その場をあとにした。
ただひたすらに、夏希の言葉を心のなかで否定し続けた。そんなわけないって、現実を見るように。
だから自分の声が予想外に震えていたことにかなり驚いたし、嘘をつくことは別に得意なわけでもないけれど、こんなにぎこちなくしかできなかったことに心臓が痛んだ。
廊下を走りながら滲む視界を必死にクリアにするように手で流れている涙を何度も拭う。
"きらい"だと言ったことを"嘘"だと思ってる時点でもうおかしい。
私、あいつのことなんて間違いなく嫌いだったはずだ。いつだってこっちの事情なんてまるで無視して、明るく話しかけてきていた夏希に嫌われたいと無視をし続けていたはずなのに。
ーー『好きなんだ、俺、モナのこと……』
誰もいない下駄箱までたどり着くと、ロッカーに手をかけて、うな垂れるように立ち止まった。タイミングを見計らったようにホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴り響く。
手をつけていたロッカーに背中を預けた。意味なく上を向く。
夏希が……私のことを……好き?
口もとを手で覆った。いまでもまだ、言われた言葉がこんなにも信じられない。きっと、なにかの冗談だ。間違いだ、きっと。そうに決まっている。
だって、私は、私が好きじゃないもの。
好きになれっこない、こんな私。
誰からも好かれないよ、こんな一匹狼。
嫌われ者の自分なんて、できるなら捨ててやりたいって、そう思う。思っていた。
自分ですら見捨てていた私なのに……。