あのとき離した手を、また繋いで。


今まで夏希は私のこと、彼の中にある責任感のようなもので気にかけてくれているのだと思っていた。


だけどそれは違ったということ?



「あれぇ、もしかして2年の橘さん?」



チャラチャラと間延びした男性の声が耳に届いて顔を上げる。


目の前には見るからにヤンチャそうな先輩ふたりが私を物珍しそうに目を見開かせて立っていた。


上下する目線。私のことを品定めするかのようなその目の動きに気分を害される。



「なにしてんの?こんなところで」


「………」


「泣いてんじゃん。どうしたの?俺らが慰めてやろうか?」


「ちょっ……」



伸ばしてきた男の手から逃れようと、身体を大きく仰け反らせる。けれど後ろには下駄箱のロッカーがあり、前には大柄な先輩たちふたりがいる。


逃げ場のない状況にいることを理解した。



「ヤベェー、初めてこんな近くで見たけどやっぱ可愛いわ」

「ねえ、今から学校サボって俺らと遊ばない?」



距離が近い。とても嫌悪感がする。
ニヤニヤしているその表情が心底気持ち悪い。



「……離れてください」

「うお、声まで可愛い」

「あなたたちに構ってる暇、ないんです」

「……あ?」



低い声が飛んできて背筋が凍る。
片方の先輩の機嫌を損ねたことは明確だった。



「お前ナメてんの?お前みたいなおじさん大好きなエンコー女に偉そうに言われる筋合いないんだよ」

「……っ……」

「身体売って金稼いでるくせに生意気いってんなよ!?あん!?」



すごい剣幕で怒鳴られて、目をギュッとつむる。


ああもう、なんで、私こんなんなのだろう……。


辛いよ、もう。


こんなに辛いだけの人生なら、私はもう……


生きていたくない。



「……てめぇ、汚ぇ手でモナに触んなッ!」



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