あのとき離した手を、また繋いで。
その声に力の限りつぶっていた目を、開けた。
目の前にいたはずの先輩の胸ぐらを掴んでいるのは……夏希だった。
血相を変え、怒りに満ちた雰囲気を纏って先輩のことを睨みつけるその表情はいつもの彼のものとはかけ離れている。
なつ、き……?どうして……?
「なに、お前……っ」
「モナに謝れ……!ヒドイこと言ってごめんなさいって言えよ!!」
……もしかして、全部聞いていたの?
私のことで、そんなに怒ってくれているの?
なんで、どうして……っ。
「離せよ……っ!!」
先輩が勢いよくナツキを突き飛ばした。
尻もちをつくナツキが負けじと立ち上がり、先輩に食ってかかる。
「謝れって!」
もうひとりの先輩も夏希を友人から引き剥がそうと必死になり始める。
私は震える手を握りながら、夏希の勇ましい姿に涙を流した。
この学校の誰からも必要とされていない私。
変な噂に誰も近づこうとはしなかった。
幾度となく聞いた自分の陰口。心無い言葉たち。
でもただひとり、夏希だけが私をこんなにも守ってくれる。
その想いに、頬をつたう涙は止まらない。
「くそっ、しつけぇーぞ!!」
ねえ、だから……もう、いいよ。
「お前らがモナ傷つけていいと思ってんのかよ!!」
もう、十分だよ……。
私は夏希、君がいればそれでいいよ……。
私のことを好きだと、守りたいと言ってくれる救世主のような君さえいれば。