あのとき離した手を、また繋いで。
もう他にはなにもいらないよ。
「うぜぇ!!」
先輩のひとりが握りこぶしを大きく振りかざし、そのまま夏希の頬を殴った。
小さく悲鳴をあげて、勢いよく倒れ込んだ夏希のそばに駆け寄る。
「夏希……!」
上体を起こした彼の口の端からは赤い血が滲み出ていた。痛々しいその姿に顔をしかめる。
不器用に肩に触れて彼の顔を覗くと「大丈夫だから」と私を安心させるように息をこぼして微笑んだ。
そしてふたりの先輩がその場から去ろうしている姿を見て「おい!まだモナに謝ってねーだろーが!」と夏希が声をかける。
「チッ……」
舌打ちをした先輩。横目で私のことを見た。
「悪かったな……」
そしてふてぶてしい態度ながら、謝罪の言葉をかけられた。
去っていく姿を尻目に夏希に目をやる。
「へへへ、モナ、ごめんな。駆けつけるの遅くなって」
「ばか……あんたって、ほんと……っ」
ヘラヘラ笑っている夏希に無性に腹が立つ。
殴られたところ、絶対痛いはずなのに、余裕そうに私の頭を撫でてくる。
「……っ……」
口の端の傷に手を伸ばしかけたとき、「お前たちなにやってるんだ!」と先生の怒号が聞こえてきて夏希と顔を見合わせる。
騒ぎを聞きつけた先生たちが様子を確認しに来たんだ。
どうしよう……この一件のせいで夏希が停学にでもなったら……。
「モナ、逃げるぞ」
「えっ……?」
巡らせていた思考を途切れさせた夏希の台詞に短く声を漏らす。
握られた手首。そこを見ると強く手を引かれて意図せず立ち上がるかたちになる。
そしてそのまま走り出した彼に引きずられるように私も走った。
上履きのまま校舎を出て、校門も抜けた。