あのとき離した手を、また繋いで。

それはまるで



本来なら学校でつまらない授業を受けている時間なのに、私たちは電車に揺られていた。まだ午前10時だ。


どこに行くのか、まったくもって謎。
夏希は私に行き先を教えようとはしない。


ただ一言「モナを連れて行きたい場所」とだけ。


電車の車両からどんどん人がいなくなっていく。ひとり、またひとり。


窓の外を流れる景色も、都会の高いビルたちからだんだんと緑豊かな景色へと移り変わっていく。


のどかで青い空が映える。電車のスピードに合わせて移ろいでいくけれど、それでもとてもいい眺めなのはわかる。


荒んでいる心が癒される感覚がしている。


隣に座る夏希はスマホの画面を見ていた。手は、繋がったまま。


ふたりの間にある汗がすごく気になるし、心臓が忙しなくて落ち着かない。居心地が悪いわけじゃ、ないのだけど。


左手でスマホを扱う彼に違和感を覚える。


あれ、夏希って左利きだったっけ?



「……誰かに連絡してるの?」


「んー、友だちがうるさくてさぁ」


「手、離そうか?」



左手だけじゃ文字を打ち込みにくいでしょうし。


でも夏希は「いい。うるせぇから、もうスマホの電源落とす」とスマホの電源を落としてポケットにしまった。


何気ないように、流れる景色に再び目線を投じた。


今の、さ……もしかして手を離したくないから、とか、そんな理由じゃないよね……?


私が緩めた手を、彼がギュッと握りしめた感覚にそんな考えが浮かぶ。自惚れたような、馬鹿げた発想。


でも、だけど、夏希って私のこと……好き、なんだよね?


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