あのとき離した手を、また繋いで。
白い歯を見せて豪快に笑う彼。
私は視線をそらしながら唇に力を入れて、心の奥底から湧いて出るよくわからない感情を噛みくだく。
得体の知れないそれは気を抜いたら私の頬を緩めてしまいそう。
例えるならとても熱く、私の心臓を強く早く動かすエネルギーのようなもの。
……ガソリン?温泉?
さっきから身体がぽかぽかしていて、動悸もすごい。これ、なんていう現象?
「ところでどこまで行くの?」
「んー、秘密」
「ちぇ」
この流れで教えてくれるかもと思ったのだが甘かった。ここまで内緒にされると逆にハードルが上がってるってことに気づいているだろうか。
背もたれに体重をやって、深く息を吸い込んで吐いた。
どこか非現実的な感覚がする。
だって朝からトラブルに巻き込まれたかと思うと、今は目的地がどこかわからないまま電車の中にいるのだから。
しかも、クラスメイトの男子とふたりきりで、手を繋いで。
おかしな現実に自分がいる。そんな感じ。
「降りるぞ」
「え、うん……」
引かれて降りた駅。目の前に広がるその景色に呆然とした。
……なんだ、この田舎。
そこらじゅうに生える雑草、草木、名前の知らない小さな花。
改札のない無人駅、切符を専用の木箱に入れてその場を出た。
アスファルトなんてない、道と呼んでいいのかすら怪しい地面は、車の跡で窪んでいる。青空は果てしなくどこまでも広がっていて、広大な土地を強調させている。
「どう?」
「どうって……」
見慣れない景色に言葉が出てこない。
だけど……。
「……すごい」
嘘偽りのない、率直な感想だった。
自分がそんなに大層な都会に住んでる身だとは思ってなかったけれど、これは考えを改めた方がいいかもしれない。
「だろ?」
「うん、なんか、落ち着く」